東京地方裁判所 昭和43年(ワ)1043号 判決 1969年1月18日
原告 株式会社第一相互銀行
被告 浦部和夫 外一名
主文
被告浦部は原告に対し、別紙<省略>第一目録一、三、四記載の各土地につき浦和地方法務局川口出張所昭和三九年六月二三日受付第一五九六二号、同目録二、五記載の各土地につき同出張所同日受付第一五九六三号をもつてした各停止条件付賃借権設定仮登記の抹消登記手続をせよ。
被告浦部は原告に対し、別紙第二目録記載の土地につき浦和地方法務局昭和三九年六月二二日受付第一六一八六号をもつてした停止条件付賃借権設定仮登記の抹消登記手続をせよ。
被告株式会社成進商会は原告に対し、別紙第二目録記載の土地につき浦和地方法務局昭和三九年七月三一日受付第二〇二〇四号賃借権設定仮登記の抹消登記手続をせよ。
訴訟費用は被告らの負担とする。
事実
原告訴訟代理人は、主文と同旨の判決を決め、その請求の原因として次のとおり述べた。
一、別紙第一、第二目録記載の各土地はもと訴外川上勝次、川上善次もしくは川上東三の所有であつたが、両人らは原告に対する債務の担保として右土地に根抵当権を設定し、別紙第一目録記載の土地については、浦和地方法務局川口出張所昭和三三年九月一七日受付第八四二〇号、同第二目録記載の土地については、浦和地方法務局昭和三七年七月一二日受付第一五六一六号でそれぞれ原告を債権者とする根抵当権設定登記がなされた。原告は、右土地につき、根抵当権の実行のための競売を申立て、昭和三九年一一月二〇日浦和地方裁判所の競売手続開始決定、昭和四一年四月二六日同裁判所の競落許可決定を経て、原告が右土地を競落しその所有権を取得し、同年九月五日所有権移転登記をした。
二、1、別紙第一目録二、三、四記載の各土地については浦和地方法務局川口出張所昭和三九年六月二三日受付第一五九六二号同目録第二、五記載の各土地については同出張所同日受付第一五九六三号により、いずれも被告浦部を権利者とする各停止条件付賃借権設定仮登記が存し、その内容は次のとおりである。
イ、原因 昭和三九年六月一九日停止条件付設定契約(条件同日付金員消費貸借の債務不履行)
ロ、借賃 一ケ月坪当り金一〇円
ハ、支払期 毎月末日
ニ、存続期間 条件成就の日より満三年
ホ、特約 譲渡転貸できる。
2、別紙第二目録記載の土地については、浦和地方法務局昭和三九年六月二二日受付第一六一八六号により、被告浦部を権利者とする停止条件付賃借権設定仮登記が存し、その内容は次のとおりである。
イ、原因 昭和三九年六月一九日停止条件付設定契約(条件同日付手形取引契約、証書貸付契約による債務不履行)
ロ、存続期間 満三年
ハ、借賃 一ケ月坪当り金一〇円
ニ、支払期 毎月末日
ホ、特約 譲渡転貸できる。
3、右土地については、浦和地方法務局昭和三九年七月三一日受付第二〇二〇四号により、被告株式会社成進商会を権利者とする賃借権設定仮登記が存し、その内容は次のとおりである。
イ、原因 昭和三九年六月一日停止条件付賃貸借契約(同日設定契約による債務を履行しないときは賃借権が発生する。)
ロ、借賃 一ケ月坪当り金五円
ハ、支払期 毎月末日
ニ、存続期間 三年
ホ、特約 譲渡転貸できる。
三、右の賃借権設定仮登記はいずれも第一項の根抵当権設定登記の後になされたものであり、右仮登記された賃借権は民法六〇二条所定の期間を超えないいわゆる短期賃借権である。しかし、仮登記された停止条件付短期賃借権をもつて競落人に対抗しうるためには、競売開始決定の登記より前に、条件が成就しかつその本登記が経由されなければならないことは民法第三九五条の趣旨からみて明らかである。従つて被告らの前記各登記は原告に抗弁できず、抹消さるべきである。
四、かりに右主張が理由ないとしても、被告ら前記各登記はいずれも実体関係に符合しない仮装の登記であるから、抹消さるべきである。
被告浦部訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」旨の判決を求め、答弁として次のとおり述べた。
一、請求原因一、二の事実は認める。同三の主張は争う。同四の事実は否認する。
二、別紙第二目録記載の土地は、被告が昭和三九年六月一九日訴外川上勝次から期間一〇年賃料月五、一三〇円と定めて賃借しているものである。
被告株式会社成進商会は、適式の呼出を受けながら本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書も提出しない。
証拠<省略>
理由
原告主張の請求原因一、二の事実は当事者間に争がない。(被告株式会社成進商会はこれを自白したものとみなされる。)
ところで、本件各土地につき被告らを権利者としてなされた賃借権設定の仮登記は、いずれも原告の主張する抵当権設定登記の後になされたものであるが、右賃借権は民法六〇二条所定の期間を超えないいわゆる短期賃借権である。このような場合民法三九五条を根拠として、抵当権の実行により右土地が競落されても、後日右仮登記に基く本登記がなされたときは、右賃借権は仮登記の時に遡つて対抗力を生ずる結果、競落人にもこれを対抗しうるものと解されている(昭和一一年六月二五日大審院決定)。しかし、本件仮登記にかかる賃借権は、いずれも貸金債権の不履行を停止条件とするものであつて、仮登記の当時にはいまだ賃借権が発生していないものである。このような場合にも前記の解釈に無条件に従うとすれば、競落の後に条件が成就して賃借権が発生し本登記がなされたときは、その間いかに長年月を経ていようとも、競落人は右賃借権により競落物件の使用収益を妨げられるという甚だ不合理な結果を容認せざるをえないことととなる。不動産の価値権と用益権の調和をはかろうとする民法三九五条の立法趣旨からすれば、本件のような場合、賃借権者がその賃借権を競落人に対抗しうるがためには、必らずしも原告主張のように競落開始決定前に本登記をすることを要するものとはいえないけれども、少くとも競落許可決定確定前に条件が成就し賃借権が発生していることを要するものと解するのが相当であると考える。そして、本件において、被告らは原告の本件土地競落前にその賃借権が発生したことにつき何ら主張立証しない。もつとも、被告浦部は別紙第二目録記載の土地を訴外川上勝次から期間一〇年と定めて賃借したと主張するが、それは本件仮登記にかかる賃借権とは別個の賃借権を主張するものであつて、原告の本訴請求を妨げる理由とはならないものである。してみると、被告らは本件仮登記にかかる賃借権を原告に対して主張することができないものというべく、右仮登記を抹消すべき義務があるというべきである。
よつて原告の本訴請求はいずれも正当であるからこれを認容し、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 渡辺忠之)